［解　説］当Web siteでは漢数字の馬齢は旧年齢表記、算用数字の馬齢は満年齢表記
　トサミドリは1946年青森の盛田牧場にて生まれた。父プリメロは英国産馬で自身はアイルランドダービーを勝っている。1936年より日本で供用され、ダービー馬４頭、皐月賞馬５頭、菊花賞馬３頭、桜花賞馬２頭、オークス馬１頭の計15頭のクラシック勝ち馬を生み出している。母フリッパンシーは三冠馬セントライト、皐月賞と天皇賞を制したクリヒカリを輩出した史上五指に数えられる名牝。このトサミドリはフリッパンシー最後の産駒である。フリッパンシーは元々小岩井農場の繁殖牝馬であったが、プリメロの種を宿して盛田牧場にやってきたのであった。
　斎藤健二郎氏の持ち馬として、札幌の望月与一郎厩舎に入厩したトサミドリは1948年9月札幌でデビューした。血統の割には低評価で3番人気であったが見事にレコードで初戦を突破。２戦目を２着のあと12月に上京し、東京で連勝して4戦3勝で三歳戦を終えた。
　四歳は3月から始動。緒戦を2着で落としたものの、その後3連勝で皐月賞に挑んだ。断然の1番人気で迎えられ、ミナミホープ以下に完勝。ダービー前のオープンも斤量61kgを克服して、ダービーを単勝支持率55%の圧倒的1番人気で迎えられた。しかし逃げ馬を執拗に追いかけすぎて後半バテてしまい7着に凡走してしまった。勝ったタチカゼの単勝配当は55430円の大波乱となった。調整面ではダービー前に調教師と浅野騎手との確執があったことが伝えられている。ダービー後も休むことなく使われつづけ東京、札幌、函館、京都と転戦、菊花賞まで5連勝する。レコード勝ちも３つを含まれているが、驚くべきことにそのなかには斤量66キロを背負っての勝利もある。その菊花賞はダービー同様圧倒的1番人気に支持され、こんどはキングライト以下に圧勝。その後もトサミドリは勝ちつづけ、結局ダービー後は9連勝で四歳を終える。三冠馬の実力は十分あっただけにダービーの凡走が惜しまれた。
　五歳になってもトサミドリの連勝は止まらず、4月のオープンで74キロを背負って勝ち連勝を11に延ばした。この連勝の内容をもって「史上最強馬」と評する人もいるくらいで、それは決して誇張ではないと言えるだろう。しかし京都記念では75キロを背負い5着に敗れ連勝は止まってしまった。天皇賞前のオープンも2着に敗れ、天皇賞はあきらめて、札幌に戻る。休養十分で9月の札幌記念を勝ち、再び上京し天皇賞に初挑戦。１番人気に支持されたがレース中躓いて落馬の憂き目にあってしまった。続く毎日王冠、目黒記念もそれぞれ4着7着に終わり、四歳時の酷使と度重なる酷量でトサミドリの脚元は徐々に限界に近づいていた。
　六歳は結局3戦しかできなかった。初戦の東京盃には勝ったものの、天皇賞・春は２着、秋は最下位入線の５着であった。この天皇賞を最後に引退、静内稗田牧場にて種牡馬となり、サラブレッドの第２の仕事である繁殖生活を送ることになった。
　トサミドリの能力は繁殖生活に入ってから最大限に発揮された。トサミドリが引退したのは戦後間もなくで、当時の経済事情から種牡馬を輸入するどころではなかった。優秀な輸入種牡馬が少ない状況で良質な繁殖牝馬に恵まれ、次々と活躍馬を送り出し、クモハタとともに内国産種牡馬の代表的存在として君臨したのである。主な産駒としては八大競走に限っても菊花賞と天皇賞・春を勝ったキタノオー、牝馬ながら天皇賞・秋と有馬記念に勝ったガーネツト、朝日杯と天皇賞・春に勝ったトサオー、ダービー馬コマツヒカリ、菊花賞馬キタノオーザ及びヒロキミ、さらに有馬記念を勝ったホマレボシとおり、重賞勝ち馬に至っては枚挙にいとまがないほどである。母の父としても素晴らしく、菊花賞馬ダテテンリュウ、桜花賞馬タマミ、ハツユキ、タカエノカオリ、オヤマテスコ、そして天皇賞馬カシュウチカラの母を輩出している。輸入繁殖牝馬の攻勢が続く現在でもトサミドリの血を受け継ぐ産駒が重賞を勝つことは少なくない。これからもトサミドリの頑健さを確実に伝えていくことだろう。18年間に渡る種牡馬生活を終え、繋養先の静内・稗田牧場で悠々自適の生活を送っていたトサミドリだが、1970年8月8日老衰で永眠。享年25歳の大往生であった。
　皐月賞、菊花賞を含む31戦21勝の競走成績も素晴らしいが、繁殖馬としての良績は内国産馬としてはクモハタに比肩するものである。競走能力と繁殖能力を両立させた希有な馬として、1984年JRA顕彰馬に選出されている。
2001年12月13日筆