［解　説］当Web siteでは漢数字の馬齢は旧年齢表記、算用数字の馬齢は満年齢表記
　セイユウは1954年浦河・日高種畜牧場にて生まれた。父ライジングフレームは英国産サラブレッドで戦後日本で最初に成功した輸入種牡馬で1955年から57年までリーディングサイヤーに輝いている。産駒としてはオークス馬チトセホープ、桜花賞馬トキノキロク、ミスマサコ。天皇賞馬オーテモンなどがいる。母弟猛の血統表にある「アア」とはアングロアラブ。つまりアラブ血量２５％を満たすため、セイユウはアラブ限定競走に出走できる「アラブ」である。アラブ種アラビア半島を原産地とし、サラブレッドが作られるにあたって基礎となった存在であるが、1995年に中央競馬においてアラブ競走がなくなり、活躍の場を残された地方のアラブ競走も急速に衰退している。アラブは丈夫で力強く我慢強いて大人しいという優れた特長があるが、サラブレッドに比べスピードが決定的に劣るからである。しかしセイユウはアラブ同士では無敵の存在であり、サラブレッドに戦いの馬を求めても互角の戦いをし、重賞も3勝した希有なアラブである。
　河野通氏の持ち馬として中山・稲葉秀男厩舎に入厩したセイユウは福島においてデビューした。デビュー戦こそ落としたものの三歳9月から四歳4月まで15連勝を記録。その後68キロを背負いかつ出遅れて2着に敗れたために16連勝はならなかったが、6月には斤量実に70キロを背負って勝ち、当時のアラブの目標であった読売カップを圧勝。
　アラブでは無敵の存在となったセイユウは、これ以降主としてサラブレッドに戦いを挑むことになった。サラ初戦は当時重賞ではなかった七夕賞であった。アラブに負けては恥と関係者は尻込みしてわずか5頭立てであったが敢然と逃げ2着に７馬身差をつけて圧勝。続く福島記念は57キロであったが七夕賞よりも少ない3頭立てでこれも完勝した。セイユウはさらに強力な敵を求めて、2戦叩いたあとセントライト記念に挑戦した。セントライト記念は現在もそうだが菊花賞を目指す馬の前哨戦である。アラブのセイユウには勝っても菊花賞への出走権はない。この強力メンバーに対してセイユウは59キロのトップハンデで挑んだ。結果は後に菊花賞馬となるラプソデーを１馬身半抑えて逃げきり勝ち。セイユウは生涯最高の勲章を手に入れた。オールカマーでもハクチカラ、キタノオーという当時の横綱級を相手にあわやの４着に健闘。年末の有馬記念でもファン投票３位に選ばれた。しかしセイユウは読売カップを連覇するために西下してこれを完勝した。現在では想像できないが、当時はまだアラブ競走に人気があり、有馬記念も現在ほどの権威はなかったのである。
　五歳となってもサラブレッドに挑戦し続けたが、特ハンを１勝したに留まった。天皇賞7着を最後に引退。引退式はオンワードゼアが勝った第３回有馬記念当日に行われた。セイユウは以前より彼に惚れ込んでいた大塚牧場にて種牡馬生活に入った。セイユウは繁殖馬として恐るべき精力を持っていた。最盛期の1976年には238頭という種付けをこなした年もあった。しかしその産駒数の割にはセイユウを越えるような馬は現れなかった。それでも質より量というわけはないが中級馬をコツコツと出し、当初3万円だった種付け料は最終的には35万円にもなっていた。1977年4月その年も18頭の種付けを終えたセイユウは、供用先の大塚牧場にて心臓麻痺でこの世を去った。
　セイユウは1985年アラブにも顕彰馬を、ということで選ばれることになった。アラブには重賞にその名を残した馬として、セイユウ以前に無敵を誇ったタマツバキ、セイユウの全弟で27戦して20連勝を含む23勝したシュンエイが候補にあがったが、サラブレッドの重賞に勝った点が評価されてセイユウが選ばれた。現在、この3頭の名を冠した重賞競走は中央競馬では当然行われていない。しかしセイユウの名は地方競馬各地のアラブ重賞の名として「セイユウ記念」「セイユウ賞」として残された。しかし地方競馬でもアングロアラブの減少に伴い、2004年の金沢競馬場での競走を最後に廃止された。セイユウの名を冠した競走は消えてしまったが、サラブレッドと互角に戦ったアラブとして、セイユウの名は永遠に日本競馬の歴史に刻まれるだろう。
2002年1月7日筆